アイソザイムデータで作成した樹状図は系統樹か?

 聴講生のShirai君から、「アイソザイムデータを用いて作成した樹状図を系統樹と言ってはいけないのか」という質問があった。彼の用いた方法は次の通り:

  1. アイソザイムデータを用いて複数種・複数集団の解析を行った
  2. 集団間の遺伝距離を用いて作成したUPGMAによる樹状図では、種ごとにクラスタを形成した
  3. 種のまとまりを(もしかしたら枝のうちの1本を)系統樹の末端として種名で置き換え、系統樹として示した

これに対して、他の聴講生からは、「アイソザイムを用いた解析では系統樹はできない。できるのは集団間の樹状図(デンドログラム)である」という批判が出た。

この批判を、「アイソザイムを使ったら系統推定はできない」と読み取ってしまったら、別の誤解を招くことになるだろう。 1990年以降にDNA情報を用いた系統解析が主流になる前は、アイソザイムデータを用いた系統解析が広く用いられていた。1989年に出版された"Plant Molecular Systematics - Macromolecular Approaches" (D. J. Crawford. Wiley-Interscience)では、ボリュームの半分ほどはアイソザイム関連の項目が占めている。但し、アロザイムデータを用いた系統解析には、いくつもの条件や制限があるので注意が必要である。

Shirai君の場合、集団間の遺伝距離で得られたデンドログラムを、種間の系統関係に読みかえた時点で、系統関係の推測に関する何らかの仮説が入っている(例えば、種ごとにクラスタリングしたことから、それぞれのクラスタは種のまとまりを示していると考えている。また、クラスタ間は十分に分化していると考えて、種のクラスタ同士の関係が種間の関係を示しているとしている。。。とか。本来なら、何らかの基準が必要な推測)。Shirai君の示した"系統樹"は、アイソザイムデータで得られたデンドログラムから"推測した"系統関係であると言ってよいと思うが、推測を行うにあたっては、上述括弧書きのような根拠を示す方が良いだろう。集団のデンドログラムの枝の一本だけを残して種名で置き換え、「遺伝距離を用いた種間の系統樹」するのはかなり"大胆な"方法だと思う。

外群の設定とトポロジーについての補足図解

WS000001.JPG

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Last-modified: 2015-05-13 (水) 16:39:23 (3481d)