データベースの利用と操作:DNAデータベース の利用と系統解析 †コンピュータを利用した情報処理技術の中で、大量のデータをまとめて処理するときに必要になるのが、データベースだ。皆さんがインターネットを利用して情報収集する場合、多くのサイト(GoogleとかYahooとかAmazonとか)で、それとは気づかないままにデータベースを利用している。一般ユーザーでは、インターネットを介して提供されるデータベースを利用することが圧倒的に多いが、データベース自体の作成や、データの取り扱いに慣れれば、コンピュータを用いた情報処理の範囲が格段に広がることになる。 第13回授業の獲得目標: †
第13回授業:発展演習の解説 †解答例 drift= function(num_repeats,num_generations,size_population, num_a_allele){ results=c() a=num_a_allele for(i in 1:num_repeats){ for(j in 1:num_generations){ count_a=0 for(k in 1:size_population){ if ( runif(1) < a/size_population ){ count_a=count_a+1 } } a=count_a results=append(results, a/size_population) } a=num_a_allele } rmatrix=matrix(results, nrow=num_generations, ncol=num_repeats) return(matplot(rmatrix, type="l", ylim=c(0,1))) } この関数を使って、2008年度前期試験に出た問題の条件で、シミュレーションをやってみよう。 集団:1万人(遺伝子の集団サイズ20000)、Hbsの遺伝子頻度、約0.1 世代数 100 地球上からマラリアが撲滅され、鎌状赤血球貧血症で死ぬことも無くなった場合
drift(実験回数,観察世代数,集団サイズ,対立遺伝子数の初期値) #問2-1 drift(10, 500, 200, 100) #問2-2 drift(10, 100, 20, 10) #前期試験 drift(3, 100, 20000, 2000) #計算には時間がかかる ついでに、100個体からなる集団の1個体だけに生じた突然変異が、100世代後に集団中に存在しているかどうかについても、シミュレーションしてみよう。 データベースとは何か? †データベースとは、様々な目的のために整理されたデータの集まりのことを指すこともあるし、 大量のデータとそれを保存したり管理したりする方式まで含めてデータベースと言うこともある。 いずれの意味においても、データベースというのが、大量のデータを扱うものであることに違いは無い。 GoogleやYahooのキーワード検索 Amazonや楽天の商品検索 などは、いずれもデータベースを利用したサービスだ。 今日の授業では、生物学科の学生なら必ずお世話になるDNAデータベースの利用方法を学ぶ。 DNAデータベースの利用:様々な検索とダウンロード †今日の授業では、まず、 インターネットを介してデータベースにアクセス 情報を取得 自分の実験・解析に用いる 方法を修得する。用いるのは、生物学の研究において最も頻繁に利用されるデータベースであるDNAデータベースだ。 今回は、DNAデータベースから実際にデータをダウンロードして、自分のコンピュータ上で加工し、系統樹を作成することに挑戦する。 3大DNAデータベース †現在、DNAデータベースには3つの大きなデータベースが存在する。
日本で運営されているDDBJはEMBL, GenBankと共に3大DNAデータバンクと呼ばれ、三者で「国際塩基配列データベース」を構築している。DDBJで登録されたデータには、EMBL, GenBankと共通のアクセッション番号が与えられる。個々のデータには、どのデータベースからでもアクセス可能だ。
GenBank を用いる 皆さんが自分の研究にDNAデータベースを利用するときにも、使いやすさの面から、きっとGenBankを使うだろう。 塩基配列データの総数 †ところで、これから検索しようとするデータベースに、塩基配列は何件保存されているだろうか? 質問: DNAデータベースに保存されている塩基配列の件数(エントリー数とか登録数ともいう)は? a) 100万件 b) 1,000万件 c) 1億件 d) 10億件
キーワードを用いたDNAデータベースの検索: GenBankの利用 †それでは、いよいよGenBankを使って、登録されている塩基配列情報を何か検索してみまよう。まず GenBank http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/ にアクセスする(右クリックして新しいタブで開く) 画面の上部の入力欄で、プルダウンメニューをつかって検索対象を"Nucleotide"(意味:「塩基配列」)にして、画面の上の方にあるテキスト入力フィールドに下のキーワードを入力してみよう。準備ができたら"Search"をクリックしよう。 H1N1 Flu
それでは、青い文字で下線のついたリンクをクリックしてみよう。画面が変わって、登録内容が表示される。いろんな項目のことをアノテーションと呼び、登録されたデータがどの生物から得られたものかとか、遺伝子の構成、実験の条件などいろんな情報が含まれている。 LOCUS AB242157 367 bp DNA linear PLN 16-MAY-2006 DEFINITION Hibiscus tiliaceus DNA, microsatellite, clone:Ht-63. ACCESSION AB242157 VERSION AB242157.1 GI:96775746 KEYWORDS . SOURCE Hibiscus tiliaceus ORGANISM Hibiscus tiliaceus Eukaryota; Viridiplantae; Streptophyta; Embryophyta; Tracheophyta; Spermatophyta; Magnoliophyta; eudicotyledons; core eudicotyledons; rosids; eurosids II; Malvales; Malvaceae; Malvoideae; Hibiscus. REFERENCE 1 AUTHORS Takayama,K., Kajita,T., Murata,J. and Tateishi,Y. TITLE Isolation and characterization of microsatellites in the Sea hibiscus (Hibiscus tiliaceus, Malvaceae) and related hibiscus species JOURNAL Unpublished REFERENCE 2 (bases 1 to 367) AUTHORS Takayama,K., Kajita,T., Murata,J. and Tateishi,Y. TITLE Direct Submission JOURNAL Submitted (14-NOV-2005) Koji Takayama, Botanical Gardens, Graduate School of Science, The University of Tokyo; Hakusan 3-7-1, Bunkyo-ku, Tokyo 112-0001, Japan (E-mail:takayama@bg.s.u-tokyo.ac.jp, Tel:81-3814-2625, Fax:81-3814-0139) FEATURES Location/Qualifiers source 1..367 /organism="Hibiscus tiliaceus" /mol_type="genomic DNA" /db_xref="taxon:183267" /clone="Ht-63" /tissue_type="leaf" repeat_region 1..367 /note="microsatellite" /rpt_type=tandem ORIGIN 1 taacccaaac cgccagtcca gtcttttcag cccaataccc aacacacaca ctcaacccgg 61 ctctctctct ctctatctct ctctctctca gcccactcac cctaacatag cccattcttc 121 ctttacccaa tacacacata actcactcat atacacacac acaacaaagc caacacacac 181 tctcaccctc cttcacagcc cgcaccacat actcactaac acaacccaca catatccggc 241 ctattcatac ataccaacct actcattctc acataaccca ctctcctcac aacacacaca 301 cacacacctc tcttactcaa cccatactct ctctcggccc agacctcacc tacttggccc 361 actctta // なお、表示されたデータは全て、テキスト情報であることに注意しよう。 この講義の大きな目的は、テキストファイル(テキスト情報)の扱いに習熟すること だったことを覚えているだろうか? さて、これで、キーワードを用いたDNAデータベースの検索は、一通りできた。あとは、Googleで検索をするときのように、キーワードを加えて絞り込むなどして、欲しい情報をデータベースから探す。
塩基配列データを用いたデータベース検索:BLAST †さきほどは、 キーワード を用いて DNAの塩基配列 を 検索 したが、逆に、 塩基配列 を用いて 登録されている似たようなデータを 検索 するにはどうすればいいだろうか? (GenBankのトップページからリンクを辿って、BLASTのページに入り、"Nucleotide-nucleotide BLAST (blastn)"をクリックすることで入れる) このページにはいろいろとデータを入力したり、設定を変更するボタンがある。DNAデータベースに入っている情報は、ヒトやマウスのデータが圧倒的に多いが、今回は、それ以外の生物のデータをサーチするため、
BLAST!をクリックすると次の画面が表示されるが、検索にはしばらく時間がかかる。画面には経過時間が表示される。 検索が終わると、検索が表示される。画面の上の方には、結果がグラフィックで表示され、、画面の下の方には、説明がテキストで書かれている。
実験で得られた遺伝子の塩基配列から、似た遺伝子を探して働きを推測するときに、BLASTサーチは非常に有効だ。
DNAデータの解析:ClustalXを用いたアラインメントと系統樹作成 † 先に行ったキーワード検索では、表示されたサマリーから遺伝子の情報を表示させただった。でも、生物学の研究では、複数の塩基配列情報を、1つのファイルにまとめて保存したいことがよくある。
アクセッション番号を用いた塩基配列データの一括ダウンロード †それでは、複数の配列データを一括してダウンロードするにはどうすればいいだろうか? 例えば、下の囲みの中には、ヒト、ゴリラ、チンパンジーのミトコンドリアDNAの全配列を研究した論文(日本語要約、系統樹)から、日本人、フランス人、アフリカ人(Lisongo)、チンパンジー、ゴリラのアクセッション番号が挙げられている。 AF346989,AF346981,AF346994,D38113,D38114 GenBankやDDBJのgentryというシステムで検索するときは、アクセッション番号をコンマで区切って検索欄に入力すると、対応する配列だけが表示される。では、上の囲みの中の文字列をコピーして、GenBankの検索欄にペーストし、Nucleotideを検索してみよう。
5つの遺伝子のサマリーが表示されただろうか? FASTA形式による一括ダウンロード †さて、自分の指定したアクセッション番号を持つ5つの配列が画面に表示された。次はこれを一括ダウンロードしよう。
ダウンロードフォルダに sequences.fasta という名前で配列情報が保存された。これをテキストエディタ(K2Editorなど)で開いてみると、 >gi|13272920|gb|AF346989.1| Homo sapiens mitochondrion, complete genome GATCACAGGTCTATCACCCTATTAACCACTCACGGGAGCTCTCCATGCATTTGGTATTTTCGTCTGGGGG GTGTGCACGCGATAGCATTGCGAGACGCTGGAGCCGGAGCACCCTATGTCGCAGTATCTGTCTTTGATTC ....................... 塩基配列情報が入っていた。 FASTA形式について †FASTA形式は、複数の塩基配列をタを並べて扱うときに用いる形式の1つ。FASTA形式は非常にシンプルなデータ形式だ。今では、GenBankのBLAST検索や、様々な塩基配列解析ソフトウェアで広く使われている(FASTA形式の詳しい説明はこちら)。 簡単に説明すると、 >配列名などの情報 塩基配列またはアミノ酸配列 という構造になっている。下の囲みの中の配列は、ダウンロードした配列にテキストエディタ(K2Editor)を使って、Japanese, French, Chimpanseeなどの情報を追加したFASTA形式ファイル。 >Japanese TTGACCGCTCTGAGCTAAACCTAGCCCCAAACCCACTCCACCTTACTACCAGACAACCTTAGCCAAACCATTTACCCAAATAAAGT ATAGGCGATAGAAATTGAAACCTGGCGCAATAGATATAGTACCGCAAGGGAAAGATGAAAAATTATAACCAAGCA >French CTTGACCGCTCTGAGCTAAACCTAGCCCCAAACCCACTCCACCTTACTACCAGACAACCTTAGCCAAACCATTTACCCAAATAAAGT ATAGGCGATAGAAATTGAAACCTGGCGCAATAGATATAGTACCGCAAGGGAAAGATGAAAAATTATAACCAAGC >African TGACCGCTCTGAGCTAAACCTAGCCCCAAACCCACTCCACCTTACTACCAGACAACCTTAGCCAAACCATTTACCCAAATAAAGTAT AGGCGATAGAAATTGAAACCTGGCGCAATAGATATAGTACCGCAAGGGAAAGATGAAAAATTATAACCAAGCAT >Chimpansee ACTCTGAGCCAAACCTAGCCCCAAACCCCCTCCACCCTACTACCAAACAACCTTAACCAAACCATTTACCCAAATAAAGTATAGGCGA TAGAAATTGTAAACCGGCGCAATAGACATAGTACCGCAAGGGAAAGATGAAAAATTATACCCAAGCATAATA >Gorilla GCTCTGAGCAAAACCTAGCCCCAAACCCACCCCACATTACTACCAAACAACTTTAATCAAACCATTTACCCAAATAAAGTATAGGCGA TAGAAATTGTAAATCGGCGCAATAGATATAGTACCGCAAGGGAAAGATGAAAAAATATAACCAAGCACGACAC 塩基配列の区切りに >生物名(改行) を入れれば、いろんなソフトウェアで解析ができるんだから、K2Editorに慣れた皆さんにとっては、とても親しみやすい形式だろう。 塩基配列データのアラインメント †アラインメントというのは、複数の塩基配列情報やアミノ酸の配列情報を整列させることだ。塩基配列情報を扱う上でとても重要な言葉なので、覚えておこう。例えば、 cytochrome b遺伝子: ヒト ..attaaccccctaataaaattaattaaccactcattcatcgacctccccaccc... ゴリラ atgacccctatacgcaaaactaacccactagcaaaactaattaaccactcattc... という2つの配列はアラインメントされていない。ヒトとゴリラという異なる種から得られた配列だけれど、同じ遺伝子なので、きっと相同な領域はあるに違いない。しかし、こういう並べ方をすると、塩基配列のどの位置がどの位置に対応しているのか分からない。これをアラインメントすると、 cytochrome b遺伝子のアラインメント: ヒト atgaccccaatacgcaaaattaaccccctaataaaattaattaaccactcattcatcgacctccccaccccatc ゴリラ atgacccctatacgcaaaactaacccactagcaaaactaattaaccactcattcattgacctccctaccccgtc 塩基置換 * * * ** * * * * となり、サイト(塩基配列上の塩基一つ一つの位置のこと)ごとに対応関係をとることができるし、どのサイトで塩基置換が生じているのかが、一目でわかる。 異なる生物から得られた塩基配列を複数並べて、構造上の対応関係を見たり、系統樹を作成する場合は、用いる塩基配列がアラインメントされていることが必須だ。そこで、フランスのパスツール研究所のウェブサービスを使って、最近よくつかわれるアラインメントソフトウェアであるMUSCLEで塩基配列をアラインメントしよう。 パスツール研究所のウェブサービスMobyle@Pasteur †最近は分子データの解析や系統解析を行える、さまざまなウェブサービスがある。この授業で用いるのは、フランスのパスツール研究所が提供する分子生物学関係の解析サービスで、Mobyle@Pasteurと呼ばれるもの。下のリンクから、新しいタブで、リンク先を開いてみよう。 alignment > MUSCLE: 塩基配列データの高速アラインメント phylogeny > distance > QUICKTREE: NJ法による系統解析 の2つだ。 MUSCLEによる塩基配列のアラインメント †MUSCLEは最近よく使われるアラインメントソフトウェアだ。では、アラインメントに使うサンプルファイルを授業のmoodleページからダウンロードしてみよう。example1.fastaという名前のこのファイルには、先ほどGenBankで検索したヒトのミトコンドリアDNAの配列の一部がFASTA形式で保存されている。ダウンロードされたファイルは、ダウンロードフォルダか、デスクトップなどに入っているはず。 このファイルの内容を全てを選択してデータをコピーしておく(ブラウザでそのまま表示させても良いし、ダウンロードしてK2Editorで開いてコピーしても良い)
MUSCLEによるアラインメント手順 †
QUICKTREEによる系統解析 †パスツール研究所のサービスを使うと、MUSCLEで作成したアラインメントを、すぐにQUICKTREEという系統解析ツールに送って解析することができる。
ここまでできれば、皆さんは、DNAデータバンクからデータをダウンロードして、系統樹を描くことに成功した!ということになる。 第13回授業の課題 †
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